邪魔者の空気を燃料に——大気を吸い込んで飛ぶ衛星、初の打ち上げ計画が発表

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スペインの新興企業Kreios Space(クレイオス・スペース)が、「大気を吸い込んで進む衛星」を打ち上げる計画を発表しました。2026年8月4日の発表で、衛星の本体はリトアニアの衛星メーカーKongsberg NanoAvionics(コングスベルグ・ナノアビオニクス)が供給します。同社はこれを、この方式の衛星を軌道に打ち上げる史上初の試みだとしています。

「空気を吸って進む」と聞くと飛行機のジェットエンジンを思い浮かべますが、これは宇宙の話です。舞台は、ふつうの衛星よりずっと地球に近い「超低軌道」。なぜそんな低いところをわざわざ狙うのか、そしてなぜ空気を吸う必要があるのか。順番に見ていきます。

衛星が低く飛べない理由

衛星は、低いところを飛ぶほど有利です。地上に近いぶんカメラには地表が大きく写り、同じ性能のカメラでも細かいものが見分けられます。電波の往復距離も短くなるので、通信の遅れも小さくて済みます。

それなのに、ほとんどの衛星は高度500km前後より上を回っています。低いところには、まだ空気が残っているからです。高度150〜300kmあたりは、宇宙といってもごくわずかに大気が漂っていて、衛星はそこを秒速7〜8kmで突っ切ることになります。薄い空気でも、この速度で浴び続ければ立派な抵抗になります。衛星は少しずつ減速し、高度を失い、放っておけば数週間から数か月で大気圏に落ちてしまいます。

この帯域は「超低軌道(VLEO)」と呼ばれます。範囲の定義は媒体によって幅がありますが、今回の計画が狙うのは高度150〜300kmです。通常の低軌道(およそ160〜2,000km)の、さらに内側の下のほうにあたります。

ここで長く仕事をしたければ、抵抗で失われるぶんを推進で補い続けるしかありません。従来のやり方では、そのための推進剤をタンクに積んで打ち上げます。ところが超低軌道では抵抗との戦いがほぼ常時続くため、推進剤の減りが速い。たくさん積めば衛星が重くなり、打ち上げも高くつきます。そして積んだ量には限りがあるので、タンクが空になった時点で任務は終わりです。低く飛ぶうまみは分かっていても、商売として成り立たせるのが難しかったのは、この「寿命がタンクの容量で決まる」構図のせいでした。

抵抗の原因を推進剤に変える発想

Kreios Spaceが開発してきた「大気吸込み式電気推進(ABEP:Air-Breathing Electric Propulsion)」は、この構図を根本からひっくり返します。衛星の前面に取り入れ口を設け、飛びながら周囲の希薄な空気を集める。集めた空気を電気の力でイオン化し(電気を帯びた粒子に変え)、後ろへ加速して吹き出す。つまり、これまで衛星の寿命を縮めてきた張本人である残留大気を、そのまま推進剤にしてしまうのです。

推進剤を積まないので、タンクが空になる心配がありません。飛んでいる限り、材料は周囲からいくらでも補給されます。代わりに必要になるのは、空気をイオン化して加速するための電力です。任務の長さを決めるものが、タンクの容量から、太陽電池などでまかなえる電力へと入れ替わる——ここがこの方式のいちばん面白いところです。低い軌道の空気は「避けるもの」ではなく「使うもの」になります。

Kreios SpaceのAdrián Senar CEOは発表の中で、「衛星をより低く、より長く、より効率的に飛ばせるようにすることで、より高解像度の地球観測と、はるかに良い衛星通信を可能にする」と述べています。

実証機の構成と任務

今回発表されたのは、この方式を宇宙で初めて試す実証ミッションの体制です。衛星本体には、Kongsberg NanoAvionicsの小型衛星プラットフォーム「MP42」が使われます。最終構成での重さは約200kg。NanoAvionicsが機体を任務の要件に合わせて仕立て、搭載機器の組み込みと試験、軌道上での初期立ち上げまでを担当し、そのあと運用をKreios Spaceが引き継ぐ段取りです。

衛星にはABEPスラスタのほかに光学カメラも積まれ、可視光と近赤外でサブメートル級(1mより細かいものが見分けられる解像度)の撮影を行う計画です。カメラの提供元はまだ公表されていません。任務の中身は、ABEPスラスタの性能の実証、周囲の環境の計測、そして撮影。米業界メディアPayloadの報道によれば、衛星はまず高度300〜350kmあたりに投入され、そこから徐々に高度を下げながら、さまざまな高度でスラスタを噴射して動作を確かめる計画とされています。

まだ飛んでいないことと、残る数字

ここまで読んで期待がふくらんだところで、現在地を確認しておきます。この衛星は、まだ飛んでいません。今回の発表は打ち上げの成功報告ではなく、機体の供給契約と計画の発表です。打ち上げ時期も発表の中では示されておらず、業界紙の報道では2027〜2028年ごろとされていますが、確定した日付はありません。

性能を示す数字も、まだ出ていません。スラスタの推力がどれくらいか、必要な電力はどれくらいか、取り入れ口でどれだけ効率よく空気を集められるか。この方式が成り立つかどうかを左右する数字は、発表にも各報道にも見当たりません。第三者による検証もこれからです。

また、大気を吸い込む電気推進というアイデア自体は、以前から研究されてきたものです。欧州宇宙機関(ESA)も過去に地上での試験研究を行っています。今回が「初」なのは、この方式の衛星を実際に軌道へ打ち上げて飛ばすという点で、これも現時点では企業の発表にもとづく話です。

それでも、超低軌道への関心が世界的に高まっているのは確かです。より鮮明な地球観測、より遅れの少ない通信という利点は、多くの企業や国が狙っています。抵抗の原因そのものを推進剤にするという反転の発想が、実際の宇宙でどこまで通用するのか。数字が出てくるのは飛んでからです。続報を待ちたいと思います。

出典

この記事は、以下の発表・報道をもとに書きました。

Kreios Space to fly VLEO demonstration in NanoAvionics bus(SpaceNews・2026年8月4日)

Kreios Space Selects Kongsberg NanoAvionics for Air-Breathing Electric Propulsion VLEO Mission(SatNews・2026年8月4日/両社の共同発表にもとづく記事)

Exploring ‘very low Earth orbit’: The world’s 1st air-breathing satellite thruster could soon get a test run(Space.com・2026年8月9日)

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