ティラノサウルス・レックス(T.レックス)が大人の体になるまでにかかった年数が、25年から35〜40年へと引き延ばされました。オクラホマ州立大学健康科学センターのホリー・ウッドワード教授らが、2026年1月にオープンアクセス誌『PeerJ』で報告したものです。
ただ、この研究のいちばんおもしろいところは「40年」という数字そのものではありません。新しい化石が見つかったわけでも、記録破りの巨大な個体が出土したわけでもない。変わったのは、骨に残された“年輪”の数え方のほうでした。

25歳で止まるとされてきた定説
恐竜の年齢を知る方法として、いちばん確実に近いのが骨の断面を見ることです。木の切り株に年輪があるように、恐竜の脚の骨にも1年に1本ずつ線が刻まれます。成長が鈍る季節には骨の外側へ積み上がるスピードが落ち、そこが線として残る。この線を数えれば、死んだときの年齢が推定できます。
この方法でT.レックスの成長を初めて数値化したのが、2004年のエリクソンらの研究でした。7個体のデータから、体重8トン超に達するまでおよそ20年、寿命は30年に届くかどうか、という像が描かれます。この曲線はその後20年あまり、新しく見つかった標本の年齢や体重を見積もる土台として使われてきました。「T.レックスは25歳前後で成長が止まる」という言い方は、ここから来ています。
一頭の骨に残らない一生分の記録
ところが、木の年輪と骨の成長線には決定的な違いがあります。切り株なら中心から外側まで、一生分の記録がそのまま残っている。骨はそうはいきません。成長するあいだ、骨の内側では骨髄腔(こつずいくう=骨の芯にある空洞)が外へ外へと広がり続け、内側の古い線から順に消していってしまうのです。
その結果、大人のT.レックスの脚の骨を切っても、そこから読み取れるのは晩年の10〜20年ぶんだけ。若い頃の記録は、その個体の骨の中にはもう存在しません。
だから一生分の成長曲線を描くには、若い個体・中くらいの個体・大きな個体の記録をつなぎ合わせるしかない。問題は、つなぎ目をどこに置くかです。ある個体のいちばん内側の線が「何歳のとき」に当たるのかは、直接には分かりません。従来は、断面のスライドを大きさ順に並べて目で見ながら重ね合わせる、といったやり方が使われてきました。
今回の研究チームは、この重ね合わせを人の目に任せませんでした。各個体の「開始年齢」を未知数として扱い、成長曲線そのもののパラメータと同時に、最小二乗法でまとめて推定する。統計解析を担当したインテレクチュアル・ベンチャーズのネイサン・ミアボルド氏は、複数の標本の記録を継ぎ合わせて全生涯の成長軌跡を推定する新しい統計手法だと説明しています。
調べたのは大腿骨(だいたいこつ=ふとももの骨)と脛骨(けいこつ=すねの骨)に限っています。ある個体では腓骨(ひこつ=すねの外側の細い骨)も切ってみたのですが、こちらは骨の作り替えが進みすぎていて、成長線がほとんど読めませんでした。過去の研究では腓骨も年齢推定に使われてきた経緯があり、どの骨を使うかで答えが変わりうることを示す結果です。
偏光顕微鏡で見えた未知の成長マーク
17個体ぶんの薄片(はくへん=顕微鏡で見るために薄く削った骨の切片)を観察する過程で、チームは妙なものに気づきます。
骨の成長線には、はっきりした細い線として見えるタイプと、ぼんやりした帯として見えるタイプがあります。後者は普通の光では見分けにくい。そこで光の振動方向をそろえた偏光(へんこう)を当てると、繊維の並びがそろっている部分だけが明るく光って浮かび上がります。

この方法で見ると、普通の光ではまったく見えないのに、偏光下でだけ帯として現れる線が、ほとんどの標本にありました。恐竜の骨組織の研究で、詳しく報告された例がほとんどない種類のマークです。
しかも現れた場所に意味がありました。従来の数え方だと、線と線のあいだが不自然に開いてしまう箇所がいくつかあった。1年でそんなに骨が太くなるだろうか、という不自然さです。その隙間に、偏光でしか見えない線が1〜3本ずつ挟まっていたのです。
密集した線をめぐる前提の見直し
もうひとつ、チームは長年の慣習に手を入れました。「マルチプレット」と呼ばれる、線が2本以上ぴったり寄り添って並んでいる箇所の扱いです。
これまでの恐竜研究では、密集した線はまとめて1年分と数えるのが通例でした。根拠になっていたのは、サンショウウオやカエルのような小さな両生類です。彼らは1年のうちに夏眠と冬眠を両方経験するため、1年で2本の線が刻まれる。恐竜の密集線も同じで、「調子の悪い1年のあいだに成長が何度も止まったり再開したりした跡」だろうと解釈されてきました。
ウッドワードらは、ここに異を唱えます。体の大きな動物はエネルギーの蓄えが桁違いに大きい。手のひらに乗る両生類のように、1年のうちに何度も成長を止めては再開する、という切り替えが同じように起きるとは考えにくい。それよりも素直な読み方があるのではないか——密集した線は「悪い年が何年か続いた」記録なのではないか、と。
この読み替えは効き目が大きいものです。以前の研究では、密集線をまとめて1年と処理したことで、ある標本の年齢の見積もりが半分になった例があります。線を1本ずつ数えるか、束ねて1本と数えるか。それだけで、同じ骨から出てくる年齢が2倍変わってしまうわけです。
データ点を増やすほど狭まった誤差の幅
線を1本増やすたびに、推定は不確かになるはずでした。
チームは、線の数え方を変えた4通りのデータセットを作り、それぞれ別々に成長曲線を当てはめています。すべての線を1年ずつ数える「A」、密集線を1年にまとめる「NoM」、偏光でだけ見える線を除く「NoX」、その両方を除いた「NoXM」の4つ。最後のNoXMが、これまでの恐竜研究のやり方にあたります。
ふつうに考えれば、あやしいデータ点を足せば当てはまりは悪くなります。ノイズが増えれば、曲線からのばらつきも推定の不確かさも大きくなるはず。ところが結果は逆でした。
全部の線を数えたAは、データ点が152個とNoXM(105個)の1.5倍近くあるのに、95%信頼帯——真の曲線が入っていると期待できる範囲の幅——がいちばん狭かった。さらに、NoXMと共通する105個の点だけで当てはまりを採点し直しても、105点だけで作った曲線より、152点で作った曲線のほうがその105点をうまく説明したのです。
念のため、チームは偏光線と密集線が「ただの余計な線」だった場合の検証も行っています。実際と同じ本数だけ、でたらめな位置に架空の線を置いたデータを1万通り作り、同じ手順で曲線を当てはめる。Aで見られたような改善が偶然に起きたのは、1万回のうち68回でした。統計的には、偶然では説明しにくい水準です。
つまり、偏光下でだけ見える帯も、密集した線も、ノイズではなく本物の年の記録だった。少なくとも、そう考えたほうがデータのつじつまが合う。数字が変わった理由は、化石ではなく読み方のほうにあったわけです。
35〜40年という到達点
すべての線を年として数えたAの曲線では、T.レックスの成長は35〜40歳あたりで頭打ちになります。2004年のエリクソンらの曲線より、およそ15年遅い到達点です。
成長のスピードも、ゆるやかに描き直されました。いちばん体重が増えた年でも年間およそ360キロ。従来のやり方(NoXM)で数えると年間557キロになるので、ピーク時で6割ほどに落ち着いた計算になります。
成長しきった体重はおよそ8トン。大きなアフリカゾウでだいたい7トンですから、それより一回り重い体を、40年近くかけて作り上げていったことになります。
骨が太くなる速さは、若い時期から亜成体(あせいたい=子どもと大人の中間)の終わりまで、1日あたり25〜100マイクロメートル。髪の毛の直径が0.08ミリ前後なので、よく伸びる時期には髪の毛1本ぶんに近い厚みが毎日、骨の表面に積み上がっていた勘定です。1日10マイクロメートルを切るようなゆっくりした組織は、いちばん大きな個体の、骨のいちばん外側にしか現れませんでした。
個体差も小さくありません。ノースダコタ州から出た標本(BDM 050)は、成長が止まるまでに27年から42年かかったと見積もられます。幅が広いのは、4通りの数え方のどれを採るかで答えが変わるからです。
亜成体期の長さが持つ意味
40年近い成長期間が意味するのは、単に長生きだったということではありません。「大人でも子どもでもない、中くらいのT.レックス」でいる時間が、想像よりずっと長かったということです。
共著者のジャック・ホーナー氏(チャップマン大学)は、40年に及ぶ成長期があったことで、若いティラノサウルスが環境の中でさまざまな生態的役割を担えたのではないか、と述べています。体の大きさが違えば、狙える獲物も競合する相手も変わる。ウッドワード氏も、時間をかけてゆっくり育つことでT.レックスは一生のうちに複数の“食のニッチ”を渡り歩き、最後には同種としか競合しない大きさに達したのではないか、という見方を示しています。
この見方は、化石の出方とも噛み合います。中くらいのサイズのティラノサウルス類の化石は、それなりの数が見つかっている。従来のように成長期が短ければ、そのサイズは駆け抜けるだけの一瞬の段階のはずで、化石として残る確率は低いはずでした。ゆっくり育つのなら、そのサイズで過ごす年数が長いぶん、化石になる機会も増えます。
曲線から外れた2体の標本
この研究には、予想外の副産物もありました。
17個体のうち、断面の保存がよく成長曲線に使えたのは12個体。そのうち2体——バーピー自然史博物館(米イリノイ州)の標本で、「ジェーン」「ピーティー」の愛称で知られる小型の個体——が、ほかの標本と統計的に噛み合わなかったのです。この2体を外すと、曲線のばらつきが目に見えて小さくなった。2体の成長の速さは、ほかのT.レックス標本より明らかに遅いところにありました。
この2体は、以前から「T.レックスの子ども」なのか「ナノティラヌスという別属の大人」なのかで議論が続いてきた標本です。2025年10月には、ノースカロライナ州立大学のリンゼイ・ザンノ氏らが『Nature』で、「デュエリング・ダイナソー(決闘する恐竜)」と呼ばれる化石に含まれる小型の獣脚類が成熟したナノティラヌスであると報告し、あわせて「ジェーン」を新種Nanotyrannus lethaeusとして記載しています。
成長曲線からのずれと、骨格の形からの結論が、別々の方向から同じ標本を指した形です。ただしウッドワード氏自身は、成長の記録だけで別種かどうかを決めることはできない、として、あくまで可能性のひとつという言い方にとどめています。
他の恐竜研究への波及
偏光でだけ見える成長線は、T.レックスだけの話では終わらないかもしれません。研究チームは同じマークを、ジュラ紀の獣脚類アロサウルスの薄片や、白亜紀の鳥盤類(ちょうばんるい=トリケラトプスなどを含むグループ)でも確認しています。一方、三畳紀の初期の獣脚類コエロフィシスの標本には見つかりませんでした。
ミアボルド氏は、密集した成長線の解釈は難しく、成長研究で一般に使われている手順は見直しが必要かもしれない、という趣旨のコメントを出しています。もしそうなら、これまでに描かれてきた恐竜の成長曲線のいくつかは、年齢を短めに見積もっていた可能性があります。
解釈上の留意点
まず「40年」は、幅のある数字です。論文が示しているのは35〜40歳での頭打ちで、報道によっては35年と伝えているものもあります。
次に、この年齢は絶対年齢ではありません。いちばん小さい標本のいちばん内側の線を起点にした、相対的な年齢です。その線が本当に1歳のときのものなのか、骨髄腔の拡大でさらに何本か失われているのかは分かりません。もし失われているなら、全体の年齢は上に、つまり40年よりさらに長い方向へずれます。
今回の結果は、古い研究を否定したわけでもありません。従来のやり方(密集線をまとめ、偏光の線を使わない数え方)で曲線を引き直すと、2004年のエリクソンらのデータはほぼその95%信頼帯の内側に収まります。食い違いはデータそのものではなく、線の数え方から生まれている。どちらの読み方が正しいのかは、現生の動物の骨で線の周期性を検証していく今後の作業に委ねられます。
「曲線から外れた2体」の話も、そこまで単純ではありません。統計的な支持がいちばん高かったAの数え方では、外す必要があるとはっきり出たのは「ピーティー」のほうで、「ジェーン」の影響は小さいという結果でした。また同じ研究者から別属として扱われたことのある別の小型標本(DDM 35)は、データに加えても曲線を悪化させていません。成長の記録だけでは、まだ線引きはできない段階です。
標本の産地が偏っていることも留意点です。17個体のうち16個体はモンタナ州東部、残る1個体がノースダコタ州から出ています。地理的に狭い範囲の集団なので、種全体の平均を表しているとは限りません。
また、最大級の標本として知られる「スー」(FMNH PR 2081)は、骨の採取方法が違うため今回の曲線には含まれていません。ただし2020年に報告されたスーの成長線23本のうち、およそ半数の11本は、成長がほぼ止まったあとに刻まれた層に入っています。少なくとも11年は、成長しきった体のまま生きていた計算です。もっとも、寿命そのものについて今回の論文が具体的な数字を出しているわけではありません。
なお、この論文は査読を経てオープンアクセスで公開されており、査読のやりとりも公開されています。プレプリント(査読前の原稿)ではありません。
出典
Woodward HN, Myhrvold NP, Horner JR. 2026. Prolonged growth and extended subadult development in the Tyrannosaurus rex species complex revealed by expanded histological sampling and statistical modeling. PeerJ 14:e20469. DOI: 10.7717/peerj.20469(オープンアクセス)
New study reveals the T. rex didn’t reach full-size until age 40(オクラホマ州立大学 プレスリリース、2026年1月14日)
T. rex took 40 years to reach full size, scientists find(ScienceDaily)
Zanno LE, Napoli JG. 2025. Nanotyrannus and Tyrannosaurus coexisted at the close of the Cretaceous. Nature. DOI: 10.1038/s41586-025-09801-6 / ノースカロライナ州立大学 プレスリリース


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